暑さ指数(WBGT)とは?職場の熱中症対策に必要な基準値と測り方
目次
工場や倉庫などの大規模施設において、夏の労働環境改善は経営課題の一つです。熱中症対策を進めるうえでは、「暑さ指数(WBGT)」を現場でどう確認し、作業管理にどう反映するかがポイントになります。一方で、一般的な気温との違いや、工場・倉庫内での測定方法に迷うケースも少なくありません。本記事では、工場責任者や安全衛生管理者の方に向けて、WBGTの基準値の見方や大規模空間における熱中症リスク低減に向けた対策手法を解説します。
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WBGT(暑さ指数)の構成要素と、気温だけでは現場リスクを把握しきれない理由
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労働現場(工場や倉庫など)における作業強度別のWBGT基準値と正しい見方
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測定誤差を抑えるためのWBGT測定器の選び方と、工場内での測定ポイント
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愛知県など東海エリアの暑さの傾向と、大規模施設が受ける影響
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工場のWBGT低減に向けた輻射熱対策と、法令対応を見据えた実務の全体像
暑さ指数(WBGT)とは?熱中症予防で重視される理由
暑さ指数(WBGT)は、暑熱環境が人体に与える負担を把握するための指標です。空気の温度だけでなく、湿度や日射、周囲からの輻射熱なども含めて評価できるため、熱中症リスクを確認する場面で活用されています。※[1][3]
労働環境の安全衛生管理において、なぜ単なる気温ではなくWBGTが重視されるのか、その根拠となる構成要素や公的な警戒アラートとの関係性を解説します。
WBGTを構成する3つの測定値(自然湿球温度、黒球温度、乾球温度)
WBGTは、自然湿球温度・黒球温度・乾球温度という3つの測定値を組み合わせて求めます。これにより、気温だけでは捉えにくい湿度、輻射熱、気流の影響を含めて、現場の暑熱環境を評価できます。※[1][3][6]

特に自然湿球温度の比重が大きく、発汗による放熱のしやすさが熱中症リスクに大きく関わることが分かります。
暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)は、1954年にアメリカで提案された指標です。日本では環境省が熱中症予防情報サイトなどで広く情報提供を行っており、労働現場における安全管理の基準としても活用されています。
WBGTを構成する3つの要素は、それぞれ専用の温度計を用いて測定され、特定の計算式に当てはめて算出されます。
・自然湿球温度:温度計の球部を水で湿らせたガーゼで包み、強制通風せずに測定する温度です。汗が蒸発する時の冷却効果(気化熱)を反映しており、湿度が高いほど汗が蒸発しにくくなるため、数値が高くなります。
・黒球温度:黒く塗られた中空の銅球の中心で測定する温度です。直射日光や、熱せられた屋根、機械設備などから放射される輻射熱(放射熱)を反映します。
・乾球温度:通常の温度計で測定される、いわゆる一般的な気温です。
WBGTは、自然湿球温度・黒球温度・乾球温度をもとに算出されます。ただし、屋外で日射がある場合と、屋内または日射がない場合では、各温度に掛ける比率が異なります。環境省および厚生労働省が示す算出式の比率は以下の通りです。※[1][3]
| 測定環境 | 自然湿球温度 | 黒球温度 | 乾球温度 |
| 屋外(日射あり) | 70%(0.7) | 20%(0.2) | 10%(0.1) |
| 屋内・日陰など(日射なし) | 70%(0.7) | 30%(0.3) | 使用しない(係数0) |
屋外(日射あり):WBGT = 0.7 × 自然湿球温度 + 0.2 × 黒球温度 + 0.1 × 乾球温度
屋内または屋外(日射なし):WBGT = 0.7 × 自然湿球温度 + 0.3 × 黒球温度
この表から読み取れる重要な点は、屋内外を問わず自然湿球温度の比重が大きいことです。自然湿球温度は湿度の影響を強く受けますが、気温や気流の影響も受けるため、単純に「WBGTの7割が湿度」と見るのではなく、発汗による放熱のしやすさを大きく反映する要素と捉える必要があります。
さらに、屋内など日射がない条件の算出式では、乾球温度は独立した項目としては用いられず、自然湿球温度と黒球温度から算出されます。ただし、自然湿球温度や黒球温度はいずれも周囲の気温の影響を受けるため、屋内WBGTに気温が関係しないという意味ではありません。
つまり、工場や倉庫といった屋内空間の熱中症リスクを下げるには、気温だけを見るのではなく、湿度、輻射熱、気流、作業強度、着衣などを含めて総合的に対策することが重要です。特に屋根や設備からの輻射熱が大きい現場では、遮熱や熱源対策が有効な選択肢となる場合があります。※[2][3]
遮熱シートの導入効果を事前にシミュレーション。工場に最適なプランを提案します
なぜ一般的な気温ではなくWBGTを指標にするのか
人間の体は、発汗と皮膚表面からの熱放散によって体温を一定に保とうとしますが、気温だけではこの体温調節機能の限界を正確に測れません。工場特有の熱源や屋根からの熱気がある環境では、WBGTで複合的なストレスを評価する必要があります。
天気予報で示される気温は、一定の観測条件下で測られる空気の温度です。しかし、工場や倉庫で働く人が受ける暑さは、空気の温度だけでは決まりません。蒸気を使う工程や洗浄工程では湿度が高くなり、汗が蒸発しにくくなることで、体内の熱を外へ逃がしにくくなります。気温が極端に高くない日でも、湿度が高い環境では身体への負担が大きくなる場合があります。また、金属屋根、大型設備、乾燥炉、溶解炉などがある現場では、熱を持った物体から人体へ直接伝わる放射の影響も無視できません。通常の温度計では主に空気の温度を確認するため、こうした放射による熱負荷までは把握しにくい場合があります。

WBGTは、自然湿球温度や黒球温度を用いることで、湿度や輻射熱を含めた暑熱環境を評価できる点に特徴があります。そのため、熱源が多く、広い屋根面を持つ工場や倉庫では、気温だけでなくWBGTを確認しながら作業環境を管理することが求められます。※[1][2][3][8]
熱中症警戒アラートとWBGTの関係
環境省と気象庁が共同で発表する熱中症警戒アラートなどの公的な注意喚起は、WBGTの予測値を基準としています。
企業はこれらのアラートを、現場の作業管理や設備稼働を見直すきっかけとして活用することが推奨されています。
近年、気候変動の影響により極端な猛暑日が増加する中、国は熱中症による健康被害を未然に防ぐため、WBGTを用いた警戒システムを運用しています。アラートには危険度に応じて段階があり、それぞれ発表の基準となるWBGT値が設定されています。
| 情報の種類 | 発表基準(WBGT予測値) | 労働現場で求められる対応の目安 |
| 熱中症警戒アラート | 33以上(※府県予報区等内のいずれかの情報提供地点で、翌日・当日の日最高WBGT予測値が33に達する場合 ) | 熱中症の危険性が極めて高い。作業の延期・中止、こまめな休憩の確保などを検討する強力な目安。 |
| 熱中症特別警戒アラート | 35以上(※都道府県内の全情報提供地点で翌日の日最高WBGT予測値が35に達する場合等) | 広い範囲で極めて危険な暑さが予測される段階。通常以上に厳重な体調管理、作業の見直し、休憩・冷却体制の確保など、最大限の予防行動が必要。 |
※発表基準は、気象庁および環境省の公表情報をもとに整理しています。[4][5]
このように、WBGTは単なる専門用語ではなく、国家レベルで国民の生命を守るための公式な判断基準として採用されています。工場管理者は、毎日の天気や気温を確認するのと同じように、自社が位置する地域のWBGT予測値やアラートの発表状況を把握し、当日の作業計画に反映させる体制を整えることが、企業が安全配慮義務を果たす上での重要な取組の一つとなります。※[11]
労働環境におけるWBGTの基準値と正しい見方
労働現場におけるWBGTの基準値は、日常生活向けの目安とは異なり、作業の負荷(身体作業強度)や着用している衣服に応じて細かく設定されています。自社の工場実務に適用し、安全配慮義務を果たすための正しい基準値の見方を解説します。
日常生活の基準と労働現場の基準の違い
環境省が一般向けに発信しているWBGTの目安と、厚生労働省が労働現場向けに示している基準値には違いがあります。※[1][2]
工場の安全管理においては、労働環境に特化した基準(JIS規格に基づく基準)を参照することが大前提となります。
テレビや行政の防災無線などで見聞きするWBGTの目安は、主に「日常生活」における基準です。例えば、「WBGT28以上で厳重警戒、31以上で危険」といった区分が示されています。
これは、子供や高齢者を含む一般市民が、普段着で日常生活を送る、あるいは軽い運動をする際の熱中症予防を目的としたものです。
一方、工場や建設現場などの労働環境では、作業者は重い荷物を運んだり、安全靴やヘルメット、長袖の作業着、あるいは特殊な防護服を着用したりしています。運動量が多く、熱を逃がしにくい服装をしている労働者は、日常生活を送る一般市民よりもはるかに熱中症リスクが高くなります。
厚生労働省は日本産業規格(JIS Z 8504)に基づき、「身体作業強度」と「暑熱順化」を考慮した労働現場向けのWBGT基準値を示しています。※[2][3]
工場管理者は、「WBGTが28に達していないからまだ安全だ」と一般向けの基準で判断するのではなく、必ず自社の作業内容に照らし合わせた労働基準値を確認しなければなりません。
身体作業強度(代謝率)に応じた基準値の考え方
労働現場のWBGT基準値は、作業によって体内で発生する熱量(代謝率)に応じて変動します。作業負荷が大きければ大きいほど、許容されるWBGTの数値は低く(厳しく)なるのが特徴です。
厚生労働省のガイドラインでは、作業の負荷を「安静」から「極高代謝率」までの段階に分け、それぞれに対するWBGT基準値を示しています。
ここで非常に重要なのが、「熱に順化している人(暑さに慣れている人)」と「熱に順化していない人(新入社員や長期休暇明けの人など)」で、適用すべき基準値が異なるという点です。工場内の持ち場や作業者の状態によって適用すべき基準値が変わるため、現場の状況を正確に把握することが求められます。
| 身体作業強度の分類 | 工場・現場における作業の具体例 | WBGT基準値(熱に順化している人) | WBGT基準値(熱に順化していない人) |
| 安静 | 空調の効いた制御室でのモニター監視、休憩室 | 33 | 32 |
| 軽作業(低代謝率) | 座り作業、手元での簡単な組み立て、軽量部品のピッキング | 30 | 29 |
| 中等度作業(中代謝率) | 軽量な荷車・手押し車を押す作業、中くらいの重さの材料を断続的に持つ作業、2.5km/h〜5.5km/hでの歩行を伴う作業など | 28 | 26 |
| 重作業(高代謝率) | 重量物の持ち運び、ペースの速い組み立てラインでの連続作業 | 26 | 23 |
| 極重作業(極高代謝率) | 溶解炉の近くでの激しい作業、スコップを使った土砂の掘削 | 25 | 20 |
厚生労働省が示す表では、極高代謝率の作業について、暑熱順化者のWBGT基準値は25、暑熱非順化者のWBGT基準値は20とされています。※[2][3] ただし、熱に順化していない人に高負荷の作業を行わせる場合は、作業時間の短縮、休憩、配置転換などを含め、特に慎重な管理が必要です。
上記に加えて、作業着の素材による「着衣補正値」を考慮する必要があります。通常の作業服ではなく、特殊な作業衣類を着用する場合は、衣類の組み合わせに応じた着衣補正値を測定したWBGT値に加算して評価する必要があります。補正値は衣類の種類により異なり、例えば二重の織物衣服では+3、単層のポリオレフィン不織布製つなぎ服では+2、不透湿性つなぎ服では+10以上となる場合もあります。※[2][3]
また、これらの基準値は「この数値以下であれば絶対に熱中症が発生しない」という安全を確約するものではありません。作業者の当日の体調(睡眠不足や二日酔い)、年齢、基礎疾患の有無によってもリスクは大きく変動します。基準値はあくまで環境評価の指標とし、個別の健康観察を並行して行うことが実務上の鉄則です。
工場・倉庫での正しいWBGTの測り方と運用ポイント
WBGTは、測定器の精度や設置場所によって数値が大きく変動します。広大な空間に熱源が点在し、局所的な温度差が生まれやすい工場や倉庫において、実態に即した正確なリスクを把握するための運用ポイントを整理します。
測定器(WBGT計)の種類と選び方
工場の安全管理に用いるWBGT計は、家庭用の安価な温湿度計ではなく、JIS規格(日本産業規格)に適合した専用機器を選ぶことが重要です。
工場や倉庫でWBGTを確認する場合、輻射熱を捉える黒球センサーの有無は必ず確認したいポイントです。しかし、市販されている安価な熱中症計の中には、気温と湿度から簡易的に数値を推測するだけで、黒球が備わっていないものも存在します。輻射熱の影響が大きい工場でこのような簡易計を使用すると、実際の危険度よりも低い数値が表示されるおそれがあるため、黒球付きのWBGT計を用いることが重要です。
労働環境におけるWBGTの測定には、JIS Z 8504またはJIS B 7922に適合した機器の使用が求められます。JIS B 7922では、電子式WBGT指数計について測定精度に応じたクラス分類が設けられており、一般にクラス値が小さいほど許容誤差も小さくなります。現行規格への適合状況やクラス表示は製品ごとに異なるため、購入時にはメーカーの仕様書や適合表示を確認してください。※[2][3][6]
| JIS規格のクラス分類 | 精度の目安 | 使用時の確認ポイント |
| クラス1 | より許容誤差が小さい | 厳密な暑熱環境評価や、基準値付近での判断が必要な場面 |
| クラス1.5 | 許容誤差が比較的小さい | 一般的な労働環境の評価や、より精度を重視する日常管理 |
| クラス2 | 標準的な精度 | 一般的な工場や労働環境における日常的な目安管理 |
※用途は一例となります。
工場の現場で日常的な安全管理の目安として使用する場合、クラス2の機器が選択肢になることがあります。ただし、基準値に近い環境での判断や、厳密な労働環境評価が必要な場合は、より精度の高い機器や測定方法の採用を検討することが望まれます。
機器の形状にも複数の種類があります。 一定の作業場所にとどまるライン作業や機械操作の場合は、その場所に三脚等で固定する「据え置き型」が適しています。一方、倉庫内を移動しながらピッキングを行う作業者や、施設内を巡回する保全担当者のリスクを把握する場合は、作業者が移動する範囲の暑熱ばく露を追いやすくなり、固定式の測定器だけでは見落としやすい高温エリアの把握にも役立ちます。
誤差を抑える測定場所や高さの注意点
WBGTを現場管理に活かすには、通行の邪魔にならない場所に置くだけでは不十分です。作業者が実際に立つ位置や、熱源の近くで作業する場所など、身体が受ける暑熱環境に近い条件で測る必要があります。

巨大な工場や倉庫では、建屋内の場所によって熱環境が全く異なります。そのため、事務所の入り口付近など、適当な場所に1つWBGT計を置いて工場全体の代表値とするような運用は不適切です。正しい測定場所の選定には、以下の実務上の注意点を踏まえる必要があります。
・作業者の位置と高さに合わせる
熱源の近くでは、少し距離が離れるだけで輻射熱の影響度が変わります。必ず作業者が実際に立っている場所、あるいは作業をしている位置に機器を設置します。高さについても、立位作業であれば床面から1.1m程度、または腹部から胸部の高さを目安に、作業者の受ける熱環境を反映しやすい位置で測定します。足元からの照り返しや床暖房の有無などによって、足元と頭部で温度差が生じるケースもあります。
・熱源と風の影響を考慮する
溶解炉や乾燥機の周辺では、作業者がどの向き・距離で熱源にさらされるかによって負荷が変わります。WBGT計は、実際の作業姿勢や立ち位置に近い条件で設置します。一方で、スポットクーラーの冷風や扇風機の風が、作業者には当たっていないのにWBGT計だけに直接当たると、実際の作業環境よりも低い数値が出るおそれがあります。
測定器だけに冷風が当たると、作業者の実感より低い数値になることがあります。機器の設置位置は、作業者が実際に受ける熱や風の条件に近づけて調整します。
・直射日光や屋根からの輻射熱
窓際で直射日光が入る場所や、断熱性の低い屋根の直下(中2階やキャットウォークなど)は、他の場所よりも大幅にWBGTが高くなります。特に夏場の午後、太陽熱を蓄えた屋根材からの強力な輻射熱が降り注ぐ時間帯は、建屋上層部の温度が急上昇します。高所作業がある場合は、地上部だけでなく該当エリアでも個別に測定を行う必要があります。
このように、工場内の「熱のたまり場」や「熱源の周辺」など、最もリスクが高くなるポイント(ワーストケース)を特定して測定地点を設けることが、実効性のある熱中症対策につながります。※[2][13]
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愛知県を中心とした東海エリアのWBGT事情と傾向
WBGTは気象条件によって大きく左右されるため、自社工場が位置するエリアの気候特性を把握しておくことが重要です。ここでは、愛知県を中心とした東海エリアの暑さの傾向と、それが大規模施設にどのような影響を及ぼすのかを解説します。
環境省データ等から見る愛知県の暑さ指数の傾向
愛知県を含む東海エリアでは、夏季にWBGTが28以上の「厳重警戒」や31以上の「危険」に達する日が見られ、厳重な警戒が必要となる場合があります。
環境省の熱中症リスクカレンダーで名古屋地点の過去データを確認すると、夏季には日最高WBGTが28以上の「厳重警戒」や31以上の「危険」に達する日が見られます。ただし、これは地域の代表地点における屋外の暑さ指数であり、個別の工場・倉庫内のWBGTとは異なります。そのため、労働現場では地域のWBGT予測値を参考にしつつ、自社の作業場所での実測とあわせて判断する必要があります。※[7]
この背景には、夏季の強い日射や高温多湿になりやすい気象条件など、複数の要因があります。前述の通り、WBGTでは自然湿球温度の比重が大きく、湿度の影響を強く受けます。気温がそれほど高くない日であっても、不快な蒸し暑さが続く愛知県の気候は、WBGTの数値を押し上げる大きな要因となっています。
さらに、名古屋を含む大都市では、気温が長期的に上昇しており、特に日最低気温の上昇率が大きい傾向があります。都市部では夜間の気温が下がりにくくなるため、翌日の作業開始時点から暑熱環境に注意が必要となる場合があります。※[10]
地域特有の気候条件と工場建屋が受ける影響
高温多湿という地域特性に加え、愛知県は自動車産業をはじめとする製造業の集積地であり、製造品出荷額等でも全国上位の工業県です。※[9]この「気候」と「建物の特性」の組み合わせが、労働環境リスクをさらに高めています。
真夏の直射日光を受ける金属屋根などでは、屋根材の種類、色、断熱の有無、日射条件によって表面温度が外気温を上回り、建屋内の放射環境に影響する場合があります。※[13]具体的な温度は建物条件や測定条件により異なるため、自社建屋での実測やメーカー資料を確認することが重要です。屋根面で受けた熱は建屋内部の温熱環境に影響し、作業者が受ける輻射熱を高める要因となる場合があります。
愛知県のように外気の「湿度」が高い状態(WBGTのベースが高い状態)に、この屋根からの「輻射熱」が加わると、工場内のWBGTは瞬く間に安全基準を超えてしまいます。つまり、この地域で広大な建屋を管理する企業は、一般的な換気や空調だけでは十分な改善が難しい場合があり、建屋条件や作業内容に応じた複合的な熱中症対策が必要になることがあります。
こうした過酷な労働環境の課題は、夏季に高温となりやすい岐阜県の平野部・盆地や、多くの製造拠点を持つ三重県の工業地帯など、近隣の東海エリアの施設管理者にとっても注視すべき問題です。
したがって、愛知・岐阜・三重をはじめとする過酷な気象条件下での工場管理においては、「外気が暑いから仕方ない」と諦めるのではなく、建屋が受ける熱的負荷(特に輻射熱)を物理的に遮断する、より積極的なハード面の対策を検討することが重要と言えます。
工場のWBGT数値を下げるには?指標の3要素に対するアプローチ
現場のWBGTが高いと判明した場合、安全基準を満たすために数値を下げる必要があります。WBGTを構成する「気温」「湿度」「輻射熱」の3要素に対して、どのような設備対策が有効であり、またどこに限界があるのかを整理します。
気温・湿度を下げる対策(空調・換気)とその限界
WBGT低減に向けては、冷房設備、通風、休憩場所の整備、水分・塩分補給、作業時間の短縮などを組み合わせて実施することが重要です。※[2][3][12]
WBGTの構成要素である「気温」と「湿度」を下げるための一般的なアプローチは、スポットクーラーの導入や、大型換気扇による空気の入れ替えです。しかし、大規模空間においては、これら空調、換気設備のみに頼る対策には限界があります。
・スポットクーラーの役割と課題
特定の作業者の周囲だけを集中的に冷やすスポットクーラーは、一時的に「気温」を下げる局所的な対策として有効です。しかし、広大な工場全体を冷やしているわけではないため、作業者が少し移動すれば元の高温環境に戻ってしまいます。また、スポットクーラーは前面から冷風を出す一方で、背面からは排熱を出します。排熱ダクトを適切に屋外へ逃がさなければ、工場全体の「気温」はかえって上昇してしまうというジレンマを抱えています。
・大型換気扇、送風機の役割と課題
屋内のこもった空気を排出し、風の流れを作ることで体感温度を下げる効果があります。しかし、外気の気温が35度で湿度も高い真夏日に換気のみを行う場合、取り込む空気自体が高温多湿であるため、工場内の気温や湿度を十分に下げにくいことがあります。除湿・冷房・排熱・遮熱などを組み合わせた対策が必要になる場合があります。
・工場全体空調の莫大なコスト
オフィスビルのように工場全体をエアコンで密閉冷却できる条件であれば、気温や湿度を大きく下げられる場合があります。しかし、数千平米に及ぶ巨大な空間、高い天井、シャッターの頻繁な開閉、そして内部の機械から発生する熱源を抱える工場において、全体空調を導入・稼働させる初期費用と電気代は莫大なものになります。多くの企業にとって、コスト面や運用面で導入のハードルが高い場合があります。
このように、「気温」と「湿度」だけをコントロールしようとするアプローチは、大規模施設においては物理的・コスト的な壁にぶつかりやすいのが実情です。
WBGTへの影響度が大きい「輻射熱」をカットする遮熱対策
空調だけでは解決が難しい大規模空間では、屋根や外壁、設備などからの輻射熱にアプローチする遮熱対策が、WBGT低減に寄与する場合があります。※[2][3][13]
効果の大きさは、建屋構造、屋根材、断熱の有無、既存空調、換気、熱源、施工範囲などにより異なります。前述の通り、屋内など日射がない条件のWBGT計算式では、黒球温度の係数が0.3とされています。屋根からの輻射熱が大きい現場では、その影響を抑えることが工場内の熱的負荷の軽減に寄与する可能性があります。
具体的な手法としては、屋根や壁に「遮熱シート」を施工し、太陽からの日射による熱負荷を反射・低減するアプローチが挙げられます。外部からの熱の侵入を抑えることで、工場内の温度上昇や屋根からの輻射熱を抑制し、日中のWBGTピーク値の低減に寄与する可能性があります。既存空調の負荷軽減につながる場合もありますが、効果は建物仕様、施工範囲、空調・換気条件、内部熱源の有無によって異なるため、事前の現地調査やシミュレーション、導入後の実測による確認が重要です。
遮熱などを用いて建屋の熱的負荷を下げる環境改善(ハード面の対策)は、熱中症予防における重要な選択肢の一つです。しかし、過酷な工場環境において作業者の安全を確保するためには、こうした環境改善策を講じた上で、適切な水分補給のルール化や、WBGT値に応じた作業管理といった運用面(ソフト面の対策)を最適に組み合わせる必要があります。
工場の熱中症が発生する根本的な原因の深掘りや、ハード、ソフト両面からアプローチする網羅的な対策の全体像については、以下の記事で詳しく解説しています。総合的な安全管理体制を構築するための参考としてご覧ください。
まとめ:WBGTの把握は職場の熱中症対策を進めるための第一歩
本記事では、暑さ指数(WBGT)の基本的な考え方から、工場や倉庫における正しい基準値の見方、測定方法、そして数値を下げるための根本対策までを解説しました。今回の要点をまとめると以下がポイントになります。
ポイント
- ✓ WBGTは自然湿球温度、黒球温度、乾球温度をもとに算出され、気温、湿度、輻射熱、気流の影響を総合的に反映する
- ✓ 労働環境では、作業強度(代謝率)や暑熱順化の有無に応じたWBGT基準値が示されている
- ✓ 工場内では、作業者が実際に活動する場所や熱源の近くで正確に測定する必要がある
- ✓ 大規模空間では空調だけでWBGTを十分に下げることが難しい場合があり、屋根からの輻射熱を抑える遮熱対策が有効な選択肢となることがある
WBGTの数値を可視化することは、単なる現場の温度チェックにとどまりません。それは、企業が従業員の生命と健康を守る「安全配慮義務」を果たすための第一歩です。
労働安全衛生法や労働安全衛生規則では、高温多湿な作業環境における健康障害を防止するため、事業者に必要な措置が求められています。特に、WBGT28度以上又は気温31度以上の場所で、継続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業については、熱中症のおそれがある作業者を早期に把握するための報告体制の整備、重篤化を防止するための手順作成、関係作業者への周知が義務付けられています。これらを怠った場合、法令違反や安全配慮義務違反を問われるリスクが生じる可能性があります。※[11][12]
熱中症対策を怠った場合のリスクや、工場管理者として行うべき安全衛生管理の実務手順、熱中症対策の義務化に関する詳細については、以下の記事で網羅的に解説しています。現場の数値を測った上で、次に行うべきアクションを整理するためにご確認ください。
自社工場のWBGTを把握し、「危険な数値が出ているが、空調導入はコスト的に厳しい」とお悩みの場合は、建屋そのものの熱負荷を下げる遮熱対策が、有効な選択肢の一つとなる場合があります。必要に応じて専門機関や専門会社へ相談も検討しながら、自社に最適な環境改善のアプローチを検討し始めてはいかがでしょうか。
(参考資料・出典)
[1] 「暑さ指数(WBGT)について」|環境省 熱中症予防情報サイト
[2] 「職場における熱中症予防情報|暑さ指数(WBGT)について」|厚生労働省
[3] 「暑さ指数(WBGT値)」|厚生労働省 職場のあんぜんサイト
[4] 「熱中症警戒アラート」|気象庁
[5] 「熱中症特別警戒情報とは」|環境省 熱中症予防情報サイト
[6] 「WBGT指数による暑熱環境評価と,電子式WBGT測定器のJIS化」|労働安全衛生総合研究所
[7] 「熱中症リスクカレンダー」|環境省 熱中症予防情報サイト
[8] 「観測機器について|気温はどこで、どのように計測しているのですか?」|気象庁
[10] 「ヒートアイランド現象」|気象庁/「都市化率と平均気温等の長期変化傾向」|気象庁
[11] 「労働契約法」第5条|e-Gov法令検索
[12] 「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」令和7年5月20日 基発0520第6号|厚生労働省
[13] 「まちなかの暑さ対策ガイドライン 令和4年度部分改訂版」|環境省 ※参照箇所:第6章「暑さ指数(WBGT)の把握」
※参照日:2026年6月29日
※各種制度等は法改正によって変更される場合があります。最新の情報は各省庁の公式サイトや専門機関にご確認ください。
遮熱シートの導入効果を事前にシミュレーション。工場に最適なプランを提案します