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職場の熱中症対策を怠るとどうなる?義務化に伴う罰則規定と企業の違反リスク

職場の熱中症対策を怠るとどうなる?義務化に伴う罰則規定と企業の違反リスク

目次

工場や倉庫など、大規模な施設において熱中症対策は労働者の命に関わる重大な課題です。近年、気候変動による猛暑の影響もあり、職場における熱中症予防の重要性はますます高まっています。法令においても事業者の義務が明確化されており、対策を怠った場合には厳しい罰則や多額の損害賠償といった経営リスクを背負うことになります。本記事では、企業が知っておくべき違反リスクの全体像と、現場で実践すべき具体的な改善策について詳しく解説します。

この記事でわかること
  • 熱中症対策を怠った場合に企業や事業者が負う法的リスク(拘禁刑や罰金など)

  • 安全配慮義務違反による高額な損害賠償や社会的信用の失墜といった複合リスク

  • 工場や大規模倉庫の実務において、法令違反とみなされやすい具体的なケース

  • 罰則リスクを回避し、従業員の命を守るための根本的な環境改善ステップ

熱中症対策を怠った企業に科される罰則と3つのリスク

企業が職場での熱中症対策を怠った場合、刑事罰、民事上の損害賠償、そして社会的信用の失墜という3つの大きなリスクを抱えることになります。

熱中症対策を怠った企業が負う3つのリスク(刑事罰、民事上の損害賠償、社会的信用の失墜)の図解
※2026年6月時点

近年、熱中症予防に関する周知や取組強化が進められており「うちはこれまで大丈夫だったから」という感覚的な判断は非常に危険です。まずは、なぜ今これほどまでに罰則や企業の責任が問われているのか、その背景とリスクの全体像を整理します。※[7]

また、2025年6月1日施行の改正により、熱中症を生ずるおそれのある作業については、事業者に報告体制の整備や、作業離脱・身体冷却・医療機関への搬送等を含む手順の作成・周知が求められるようになりました。※[5]

職場の熱中症対策については、労働安全衛生法をはじめとする関連法令によって事業者の義務が定められています。義務化の背景や対象となる範囲の全体像についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご確認ください。

企業が負う可能性のある主なリスクは、以下の表のように分類されます。

リスクの種類根拠となる法令等想定される主なペナルティ・影響
刑事上の責任労働安全衛生法6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金など
民事上の責任労働契約法など安全配慮義務違反に基づく高額な損害賠償
社会的影響違法な長時間労働事案に関する企業名公表制度など 企業名の公表、メディア報道による企業イメージの低下、採用難※[6]

それぞれのリスクについて、具体的な内容を深掘りして解説します。

1. 労働安全衛生法に基づく刑事罰(罰金・拘禁刑など)

労働安全衛生法では、労働者を危険や健康障害から守るための措置を講じることが事業者に義務付けられており、違反の内容によっては罰金や拘禁刑などの刑事罰の対象となる可能性があります。

労働安全衛生法第22条では、事業者は「高温、低温、多湿、通風不良等による健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない」と定められています。また、同法に基づく労働安全衛生規則において、多湿な作業場所での休憩設備の設置や、労働者の健康状態の確認など、具体的なルールが規定されています。

熱中症対策に関する義務違反の内容によっては、労働安全衛生法第22条に基づく労働安全衛生規則第612条の2等の違反として、同法第119条により6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象となる可能性があります。※[1][3][5]

ここで注意すべきなのは、違反行為をした者本人が処罰対象となり得るほか、法人についても両罰規定により罰金刑の対象となり得る点です。実際に誰が責任を問われるかは、肩書だけでなく、当該違反行為への関与や指揮監督の実態によって判断されます。つまり、経営層が方針を示していないことで現場の責任者が処罰されるケースや、逆に現場の責任者が適切な管理を怠ったことで企業全体が責任を負うケースがあり得るということです。

2. 安全配慮義務違反による民事上の損害賠償請求

労働者が熱中症で倒れた場合、刑事罰とは別に、労働契約法第5条に基づく「安全配慮義務」の違反を問われ、企業が高額な損害賠償を請求されるケースがあります。※[2] 

労働契約法では、使用者は労働者がその生命や身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとされています。これが安全配慮義務です。工場や倉庫内が異常な高温になっていることを認識しながら放置し、結果として従業員が重篤な熱中症を発症したり、最悪の場合死亡したりしたケースでは、遺族から企業に対して損害賠償請求の訴訟が起こされることがあります。

労災保険からの給付が行われた場合でも、それとは別に企業の安全配慮義務違反が認められれば、慰謝料や逸失利益等について民事上の損害賠償責任が問題となることがあります。賠償額は被害の程度、年齢、収入、過失割合、因果関係の認定などによって大きく異なるため、具体的な金額は個別事案ごとの判断になります。

民事上の責任を問われるかどうかの判断基準としては、「熱中症のリスクを予見できたか(予見可能性)」と、「そのリスクを回避するための適切な措置を講じたか(結果回避義務)」が争点となります。WBGT(暑さ指数)の測定を怠っていたり、適切な休憩を与えていなかったりした場合は、結果回避義務を果たしていないとみなされる可能性が高まります。

3. 企業名の公表や社会的信用の失墜

一定の要件を満たす違法な長時間労働事案では企業名公表が行われることがあり、社会的信用を大きく損なうリスクがあります。厚生労働省や各労働局では、こうした事案について企業名公表が行われることがあります。一方で、熱中症事案が発生したことのみを理由に、直ちに一律の企業名公表の対象となる制度ではありません。※[6]

こうした事態は、現代の企業経営において致命的なダメージとなります。インターネット上で「労働環境が劣悪で危険な工場」という悪評が広がれば、既存の取引先からの契約見直しや取引停止といった直接的な経済的損失を招きかねません。

さらに深刻なのが、人材採用への悪影響です。特に製造業や物流業では人手不足が常態化していますが、安全管理が杜撰な企業には新たな人材は集まりません。現在働いている従業員の離職にもつながり、結果として事業の継続そのものが困難になるという連鎖的なリスクをはらんでいます。熱中症対策は単なる福利厚生ではなく、企業の存続を左右する重要なコンプライアンス要件なのです。

工場・倉庫で罰則や指導の対象となり得る具体的なケース

工場や倉庫などの大規模施設は、一般的なオフィス空間とは異なり、熱中症リスクを高める特有の悪条件が重なりやすい環境です。例えば、製造ラインから発生する機械の排熱、建物の構造上生じる風通しの悪さ、そして空間が広大すぎるために局所的な空調設備では全く効果が追いつかないといった課題があります。

このような環境下において、労働基準監督署の立ち入り調査(臨検)が行われた際、あるいは実際に熱中症による労働災害が発生してしまった際に、どのような状態が「企業の対策不足」「法令違反」とみなされやすいのでしょうか。ここでは、大規模施設において指導や罰則の対象となり得る具体的なケースを3つの観点から整理します。

工場・倉庫で罰則や指導の対象となり得る熱中症対策の3つの不備(作業環境の把握不足、休憩場所・設備の不備、緊急時対応・健康管理の不足)の図解

作業環境の評価・管理を怠っている場合

客観的な指標に基づいた作業環境の測定を行わず、管理者の感覚や過去の経験則だけで作業を指示している状態は、安全配慮義務を果たしていないとみなされる典型的なケースです。

特に問題視されやすいのが、気温だけを見て「今日はまだそこまで暑くない」と判断してしまうケースです。熱中症の発生には、気温だけでなく「湿度」や「輻射熱(周辺の熱源や日差しから受ける熱)」が大きく関与します。そのため労働環境の評価では、これら3つの要素を取り入れた「暑さ指数(WBGT)」の把握が基本的な手法とされています。

指導対象となり得る具体的な状態

  • 工場内にWBGT測定器(黒球付熱中症計など)が設置されていない、または故障したまま放置されている。
  • 測定器はあっても、その数値を記録・管理しておらず、作業計画に反映させていない。
  • WBGT値が危険な水準に達しているにもかかわらず、「納期が迫っているから」と連続作業時間を制限せず、普段通りのペースで作業を強行させている。
  • 作業内容の身体的負荷(代謝量)を考慮せず、重労働の作業員と軽作業の作業員を同じ基準で管理している。

厚生労働省のガイドラインでも、WBGT値に応じた作業時間の短縮や、こまめな休憩の取得が強く推奨されています。これを無視した運用は、万が一事故が起きた際に「予見可能であった危険を放置した」として、企業の過失が厳しく問われる要因となります。※[4] 

WBGTの正しい測定方法や、環境・作業内容に応じた基準値の詳細については、以下の記事で解説していますのでご参照ください。

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適切な休憩場所や冷却設備が未整備の場合

作業現場のすぐ近くに涼を取れる休憩場所がなく、労働者の身体を冷却するための物理的な設備が提供されていない状況も、法令違反を問われる可能性が高いケースです。

労働安全衛生規則第614条では、著しく暑熱、寒冷又は多湿の作業場など一定の有害作業場について、原則として作業場外に休憩の設備を設けることが求められています。加えて、厚生労働省は、暑熱作業に係る休憩設備について、直射日光を遮る、冷房設備を設置する、ミストファンを使用するなど、内部の温湿度を下げる措置が望ましいとしています。※[3][5]

 

指導対象となり得る具体的な状態

  • 休憩所が遠すぎる:広大な物流倉庫などで、エアコンの効いた休憩室が事務所棟にしかなく、持ち場から歩いて往復するだけで休憩時間が終わってしまうケース。移動だけで体力を消耗し、実質的な休憩機能を満たしていません。
  • 日陰や冷房設備がない:半屋外の荷捌き場や、屋根の輻射熱が直撃する工場2階などで、日よけとなるテントやスポットクーラー, 扇風機などの設備が全く導入されていない状態。
  • 水分や塩分の補給体制の不足:多量の発汗を伴う作業場では、労働安全衛生規則第617条により塩及び飲料水の備付けが求められます。これに加え、スポーツドリンク、経口補水液、塩飴、氷等の備付けはガイドライン上有効とされていますが、具体的な提供方法や費用負担のあり方は作業実態に応じて検討が必要です。
  • 身体を冷やすためのグッズの未配備:深部体温を下げるために有効な、保冷剤、冷やしタオル、氷のうなどをすぐに使える状態で準備していない場合。

特に大規模施設では、「空間全体を冷やすのが無理だから」と対策を諦めがちですが、それが免罪符になるわけではありません。局所的な休憩所の設置や冷却アイテムの支給など、可能な限りの「結果回避措置」を講じていなければ、安全配慮義務違反のリスクは高まります。

緊急時の対応体制や事前の健康管理が不十分な場合

日々の体調確認を疎かにしていたり、現場で異常が発生した際の連絡網や対応マニュアルが整備されていなかったりする状態は、被害を重篤化させ、企業の責任をより重くする要因となります。2025年改正では、熱中症のおそれのある作業について、こうした報告体制や対応手順の整備・周知が求められています。※[5]

熱中症は、発症から重症化までの進行が非常に早いことが特徴です。初期症状の段階でいかに早く気づき、適切な処置を行えるかが生死を分けます。しかし、現場の体制が整っていないと、発見の遅れや誤った判断が生じやすくなります。

行政指導の対象や、事故時の過失として問われやすい状態

  • 始業前の健康状態の把握不足:朝礼などで、従業員の睡眠不足、二日酔い、朝食の摂取有無、発熱などの体調不良を確認するフローがないケース。熱中症は、前日の疲労や当日の体調が発症リスクを大きく跳ね上げます。
  • 健康診断結果の軽視:定期健康診断の結果を現場管理者が把握しておらず、高血圧や糖尿病などの基礎疾患を持つ労働者を、高温多湿な過酷な環境での作業に配置し続けている場合。
  • 外国人労働者や高齢労働者への配慮不足:厚生労働省のガイドライン等では、高年齢者や日本語での意思疎通に配慮が必要な労働者について、熱中症リスクを踏まえたきめ細かな対応が望ましいとされています。こうした事情を把握しながら必要な配慮を欠いた場合には、安全配慮義務違反の有無を判断するうえで不利に働く可能性があります。※[4]
  • 緊急時マニュアルの不在:作業員がめまいや立ちくらみを訴えた際、「少し木陰で休んでおけ」と一人で休ませて放置するケース。症状が急変した場合に対応できず、死亡事故につながる非常に危険な対応です。誰に報告し、どのタイミングで救急車を要請し、到着までにどうやって身体を冷却するかといった手順が現場で共有されていないと、企業の管理責任が厳しく問われます。※[5]

罰則リスクを回避するために工場が講ずべき実務対応

これまでに解説した罰則や賠償リスクを回避し、何よりも従業員の生命と健康を守るためには、場当たり的な対応ではなく、体系的な対策を講じる必要があります。

工場や倉庫といった大規模施設では、空調設備の導入が難しいといったハードルが存在しますが、企業としてできる対策は数多くあります。ここでは、リスク回避のために企業が実践すべき実務対応を、3つのステップに分けて解説します。

工場における熱中症対策の3つの実務対応(WBGTの把握、体調確認・緊急時対応、作業環境の改善)の図解

ステップ1:暑さ指数(WBGT)の把握と作業計画の見直し

すべての対策の第一歩は、現在の作業環境が客観的に見てどれほど危険な状態にあるのかを、正確に把握することから始まります。

前述の通り、人間の感覚や単なる気温に頼った判断は非常に危険であり、法令違反とみなされるリスクを高めます。まずは、各作業現場における「暑さ指数(WBGT)」を正確に測定し、その数値に基づいた作業計画を策定・実行することが求められます。

具体的に行うべきこと

  • WBGT測定器の適切な配置:熱源の近く、風通しの悪い場所、直射日光が当たる場所など、工場内で特に熱中症リスクが高いと想定される複数のポイントに黒球付熱中症計を設置します。
  • 数値の記録と共有:測定したWBGT値は定期的に記録し、工場内の掲示板やパトランプなどで作業員全員に現在の危険度をリアルタイムで知らせる仕組みを作ります。
  • 数値に基づく作業時間の制限と休憩の義務化:厚生労働省のガイドラインやWBGT基準値を参考に、WBGT値が高い場合には、連続作業時間の短縮や休憩時間の確保・延長を行うルールを社内で運用します。
  • 作業スケジュールの分散:気温やWBGT値が最も高くなる午後2時〜3時台の重労働を避け、早朝や涼しい時間帯に負荷の大きい作業をシフトするなどの工夫を行います。

これらの「数値に基づく客観的な管理」を組織的に実施し、その記録を残しておくことは、万が一の労災発生時に、企業がどのような安全配慮を講じていたかを示す重要な資料になります。

ステップ2:個人向け保護具の支給と健康状態の把握

作業環境全体の改善には時間がかかる場合があります。その間も作業員の安全を確保するために、労働者個人に対する物理的な保護具の支給と、日々のきめ細やかな健康管理を徹底する必要があります。

「個人の体調管理は自己責任」という考え方は通用しません。企業側が積極的に介入し、不調を隠さず報告できる職場の雰囲気づくりを行うことが重要です。

具体的に行うべきこと

  • 冷却グッズや保護具の会社支給:電動ファン付き作業服(空調服)や、水冷式の冷却ベストなど、深部体温の上昇を抑える個人用保護具を企業負担で支給します。また、ヘルメットの下に着用する日よけ用品なども有効です。
  • 水分・塩分の定期的な摂取ルール化:「喉が渇いた」と感じてからでは遅いため、時間を決めて一斉に水分補給を行う「水分補給タイム」を設けます。現場には冷水器や製氷機、塩分補給用のタブレットを常備します。
  • 始業時・作業中の健康チェック体制:朝礼時にチェックシートを用いて、前日の睡眠時間、朝食の有無、当日の体調不良がないかを確認します。作業中も、管理者や巡視担当者が作業員の顔色や発汗状態(異常な大量発汗や、逆に全く汗をかいていない状態など)を定期的に確認し、声かけを行います。
  • 異常時の初動対応訓練:もし作業員が不調を訴えた場合、涼しい場所への移動、衣服を緩めての物理的な冷却(首、脇の下、鼠径部のアイシング)、水分補給といった応急処置の手順を全従業員に周知し、定期的に訓練を実施します。

ステップ3:【根本対策】作業環境自体の温度を下げる設備投資

WBGTの管理や個人保護具の支給は非常に重要ですが、これらはあくまで「今の暑い環境下でどう安全に作業するか」という対症療法に過ぎません。企業としての責任を果たし、長期的なリスクを排除するためには、作業空間そのものの温度を下げる「根本的な環境改善」への設備投資が不可欠です。

工場や倉庫のような大空間では、「空間全体をエアコンで冷やすのはコスト的に非現実的」と諦められがちです。しかし、熱中症対策の義務化が強化される中、劣悪な環境を放置することは企業の存続に関わる重大なリスクとなります。根本的な対策としては、以下のようなアプローチがあります。

具体的に行うべきこと

  • 局所排気と換気の強化:熱源となる機械から発生する熱を、ルーフファンや大型ベンチレーターを用いて効率的に屋外へ排出します。
  • スポットクーラーや大型気化式冷風機の導入:作業員のいる場所をピンポイントで冷却する設備を導入し、局所的なWBGT値を下げます。
  • 屋根や壁の遮熱対策:工場内の暑さの要因は、屋根・壁からの輻射熱、機械の排熱、換気不足、建物形状、作業密度などさまざまです。なかでも金属屋根からの熱負荷が大きい施設では、屋根への『遮熱シート』施工や遮熱塗料の塗布が有効となる場合があります。

特に遮熱シートは、太陽由来の輻射熱負荷を低減する対策の一つであり、建物条件や施工条件が合えば、室温上昇の抑制や空調負荷の軽減につながる可能性があります。ただし、効果の程度は屋根材、既存断熱、換気量、作業内容、外気条件、施工範囲などによって大きく異なります。

具体的な環境改善の方法や、遮熱対策のメカニズムについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご確認ください。 

また、熱中症対策を目的とした設備投資には、国や自治体の補助金が活用できるケースがあります。費用面がネックで対策が進まない場合は、以下の記事も参考にしてください。 

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まとめ:根本的な環境改善で安全な職場づくりを

本記事では、熱中症対策の義務化に伴う罰則や、企業が負うべきリスク、そして具体的な実務対応について解説しました。

熱中症対策を怠ることは、労働安全衛生法令違反による刑事リスクや、安全配慮義務違反を問われた場合の民事上の損害賠償リスクなど、直接的な経営リスクにつながり得ます。さらに、企業名の公表による社会的信用の失墜は、人材採用や取引先との関係にも悪影響を及ぼし、企業の存続そのものを脅かしかねません。

しかし、これらの法令遵守や罰則回避はあくまで最低限のラインです。企業が熱中症対策に取り組む本来の目的は、「従業員の命と健康を守ること」にあります。

工場や倉庫での作業は、ただでさえ身体的負荷が大きいものです。そのうえ過酷な暑さの中で作業を強いることは、労働災害のリスクを高めるだけでなく、集中力の低下によるヒューマンエラーや、生産性の著しい低下を引き起こします。逆に言えば、働きやすい環境づくりに投資することは、従業員のモチベーション向上や人材の定着に直結し、長期的には必ず企業にとってプラスのリターンをもたらします。

大規模施設での環境改善は、「何から始めればよいかわからない」「費用対効果が見えにくい」と後回しにされがちですが、放置すればするほどリスクは膨らみます。まずはWBGTの把握や緊急時手順の整備といったできることから始め、並行して、換気・遮へい・冷房・休憩設備・遮熱対策など、自社の作業実態に合った環境改善策を検討することが重要です。

熱中症対策の義務化・罰則に関するよくある質問

熱中症対策の義務化や罰則、企業の責任範囲について、実務上よくあるご質問をまとめました。


Q.派遣労働者や下請会社の作業員が熱中症になった場合、発注側・受入側の会社にも責任はありますか?

A.場合によってはあります。 ただし、責任の有無や範囲は、単に仕事を発注しただけなのか、派遣先・元請・現場管理者として作業環境や安全衛生措置に関与していたのかで変わります。派遣労働者については、派遣元だけでなく派遣先も、作業現場での安全衛生確保や教育などについて一定の責任を負います。また、下請を含む現場でも、各事業者は自社労働者に対する熱中症対策義務を負い、現場を統括・管理する立場の事業者は、連絡体制や対応手順の整備・周知を怠ると責任を問われる可能性があります。したがって、「自社の直接雇用でないから責任がない」とは言い切れません。※[8][9]

Q.水や塩あめを無料で置いておけば、安全配慮義務は果たしたことになりますか?

A.いいえ、それだけでは通常は足りません。 厚生労働省の熱中症対策では、水分・塩分の補給に加えて、WBGT(暑さ指数)の把握、休憩場所の確保、作業時間や休憩の調整、暑熱順化、服装・冷却具の活用、健康状態の確認、教育、緊急時対応体制の整備などを組み合わせて実施することが前提になっています。そのため、「水と塩あめは置いていた」というだけでは不十分で、現場の暑熱リスクに応じた総合的な対策が求められます。※[9]

Q.労働基準監督署は、WBGT記録、休憩記録、教育記録、健康チェック票などを必ず求めますか?

A.必ず一律に同じ書類が必要になるわけではありませんが、実務上は対策状況を示す資料の確認や提出を求められることがあります。 熱中症対策に関する監督では、WBGTの把握状況、休憩やシフトの運用、安全衛生教育の実施、健康管理、緊急時の連絡体制や対応手順などについて、資料の確認を受けることがあります。これらは、法令上すべてが一律の記録義務の対象というわけではないものの、実際に必要な対策を講じていたことを示す重要な裏付け資料です。派遣労働者がいる現場では、派遣元・派遣先の役割分担に関する資料も確認されることがあります。※[8][9]

Q.空調服や冷却ベストを支給していても、作業員が着用していなければ会社の責任は問われますか?

A.はい、問われる可能性があります。 会社は、冷却装備を配っただけで当然に責任を免れるわけではありません。 着用方法の説明、着用ルールの設定、現場での声かけや確認、着用しにくい事情への対応、代替措置の検討まで含めて実施していたかが見られます。そのため、「支給はしたが、着ていないことを把握しながら放置していた」という場合には、会社側の安全配慮が不十分と評価される可能性があります。一方で、会社が必要な指示・教育・確認を行っていたのに、労働者が正当な理由なく着用しなかった場合には、会社側の責任が一定程度軽く評価される余地はありますが、自動的に責任がゼロになるわけではありません。※[9]


(参考資料・出典)
[1] 労働安全衛生法|e-Gov法令検索
[2] 労働契約法|e-Gov法令検索
[3] 労働安全衛生規則|e-Gov法令検索
[4] 働く人の今すぐ使える熱中症ガイド|厚生労働省
[5] 労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について|厚生労働省
[6] 違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について|厚生労働省
[7] STOP!熱中症 クールワークキャンペーン|厚生労働省
[8] 派遣労働者の安全衛生対策について|厚生労働省
[9] 職場における熱中症予防情報|厚生労働省
※参照日:2026年6月30日
※各種制度等は法改正によって変更される場合があります。最新の情報は各省庁の公式サイトや専門機関にご確認ください。

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