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工場や倉庫の熱中症対策とは?発生原因と根本的な暑さ対策を解説

工場や倉庫の熱中症対策とは?発生原因と根本的な暑さ対策を解説

目次

毎年のように厳しさを増す夏の暑さのなか、工場や倉庫といった大規模施設において、現場の熱中症対策は経営や現場管理における最重要課題の一つとなっています。空調設備をフル稼働させてもなかなか室温が下がらず、電気代の負担ばかりが増加してしまうと悩む責任者の方は少なくありません。また、従業員の高齢化や労働安全衛生に関わる法規制の強化もあり、対症療法的なグッズの導入だけではなく、根本的な作業環境の改善が求められています。本記事では、工場ならではの熱中症が発生するメカニズムを整理し、設備投資を含む具体的な対策の選択肢とその優先順位について詳しく解説します。

この記事でわかること
  • 工場や倉庫で熱中症が起こりやすい原因と、熱がこもるメカニズム

  • 現場で気付くべき熱中症の初期症状と、重症化を防ぐための一次対応

  • 作業ルールの見直しから設備改善に至るまでの具体的な対策方法

  • 空調効率を高める遮熱対策のメリットと、法令に基づく企業の安全配慮義務

なぜ工場や倉庫の大規模施設で熱中症が発生しやすいのか?

工場や倉庫は一般的なオフィス空間とは大きく異なり、建物自体の構造や内部の熱源など、大規模施設特有の熱中症リスクを抱えています。ここでは、現場の環境を悪化させる主な要因について解説します。

工場内にこもる熱源と機械設備による温度上昇

稼働する機械から放出される排熱は、密閉された空間内に滞留し、室温を著しく押し上げます。

製造業の工場内では、生産ラインを動かすための大型機械やモーター、炉などの設備が絶えず稼働しています。これらの機器からは大量の熱が発生し、作業空間の空気を直接温めてしまいます。特に、天井が高く広い工場であっても、換気システムが十分に機能していない場合は、上部に溜まった熱気が徐々に下層の作業エリアへと降りてくるため、空間全体の温度が上昇しやすくなります。溶接や熱処理加工を行う工程では局所的な温度上昇がさらに激しくなり、作業者が常に高温の空気に包まれる状態となるため、発汗による体温調節が追いつかなくなるリスクが高まります。

工場内で機械の熱気が上部に滞留し、作業エリアに降りて室温が上がる図

屋根や外壁から侵入する日射と輻射熱の影響

夏の強い日差しによって熱せられた屋根や外壁から放射される輻射熱は、空間全体の温度を上昇させる要因の一つです。

大規模な工場や倉庫の多くは、金属製の折板屋根や薄い外壁材で覆われています。これらは太陽からの直射日光を受けると表面温度が非常に高くなり、その熱が建物内部に向かって放射されます。これが輻射熱と呼ばれる現象です。輻射熱は電磁波として空間を移動し、人体や床、機械設備に直接当たって熱を与えます。そのため、室内の空気を冷房で冷やそうとしても、四方の壁や天井から人体に向けてストーブのように熱が放射され続けるため、作業者は「気温以上に暑い」と感じることになります。根本的な暑さ対策を検討するうえでは、この輻射熱の侵入をいかに防ぐかが極めて重要なポイントとなります。

特殊な作業環境や保護具着用による体温の上昇

安全確保や品質維持のために着用する作業服や保護具は、体内の熱を逃がしにくくし、熱中症リスクを高めます。

工場内では、落下物や飛散物から身を守るためのヘルメット、防塵マスク、厚手の安全靴などの着用が義務付けられているケースが一般的です。また、食品工場やクリーンルームなどでは、異物混入を防ぐために全身を覆う密閉性の高い防護服を着用する必要があります。こうした装備は、人間の体が本来持っている「汗をかいて蒸発させ、気化熱で体温を下げる」という機能の妨げになります。衣服の中に熱気や湿気がこもりやすくなるため、室温がそれほど高くない環境であっても、作業者の体感温度や深部体温は危険な水準まで上昇してしまうことがあります。

多湿で気温が高くなりやすい地域特性

夏の工場における熱中症リスクを考える際、その地域の「気候特性」も無視できません。

愛知県を中心とした東海エリアは、地形的な要因などから、夏季に高温となりやすい地域です。気象庁の平年値データを見ても、名古屋市の8月の平均日最高気温は33.2℃に達し、東京(31.3℃)などを上回っています。※[1][2]

高温時は、同じ程度の水分量でも相対湿度(%)の数値が低めに見えることがあるため、相対湿度の数値だけで暑さや熱中症リスクを判断するのは危険です。実際の負担感やリスクは、気温・湿度・輻射熱をあわせて評価できるWBGTなどの指標も踏まえて判断する必要があります。

こうした過酷な外気の影響を直接受ける大規模施設では、「今日は湿度が低いから大丈夫」といった感覚的な判断は危険です。単純な温度や湿度の数値だけでなく、輻射熱も考慮に入れた総合的な指標「WBGT(暑さ指数)」を現場で測定し、より厳重な作業環境の管理を行うことが求められます。※[3] 

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工場で発生する熱中症の初期症状と危険サイン

熱中症は重症化する前の早期発見が重要であり、現場管理者は労働者の小さな体調変化を見逃さない体制づくりが求められます。ここでは、現場で気付くべき症状と適切な一次対応について整理します。

現場で確認すべき主な症状と重症度の分類

熱中症の症状は、環境省や医療機関のガイドラインによって重症度(Ⅰ度〜Ⅲ度)に分類されています。現場管理者は、特に初期段階のサインを見逃さないことが重要です。

作業中の従業員が以下のような症状を訴えたり、周囲が異変に気付いたりした場合は、熱中症が疑われる状態として、直ちに対処が必要です。※[4]

【Ⅰ度(軽症):現場での応急処置で対応可能な段階】

・めまい、立ちくらみ、顔のほてり
・筋肉のけいれんやこむら返り(熱けいれん)
・大量の発汗、または拭いても汗が止まらない状態

【Ⅱ度(中等症):病院への搬送が必要な段階】

・頭痛、吐き気、嘔吐
・強い倦怠感、だるさ
・体がぐったりしている、自力で十分な水分が摂れない

なお、呼びかけへの反応がおかしい、意識障害、けいれん、高体温などがみられる場合はⅢ度(重症)も疑われるため、直ちに救急要請を検討します。

熱中症の重症度をⅠ度・Ⅱ度・Ⅲ度に分け、症状と対応の目安を示した図

工場内は騒音が大きく、またマスクやヘルメットを着用しているため、個々の作業員が自身の体調不良を言い出しにくい、あるいは周囲が顔色の変化に気付きにくいという課題があります。そのため、管理者や同僚同士で「足元がふらついていないか」「不自然に作業の手が止まっていないか」など、動作の異常を定期的に確認し合うことが予防の第一歩となります。

重症化を防ぐための早期発見のポイントと一次対応

症状が見られた場合は、直ちに涼しい場所へ移動させ、体を冷やして水分と塩分を補給する初期対応が不可欠です。

体調不良者が発生した場合、まずは安全で風通しの良い日陰や、エアコンの効いた休憩室などへ移動させます。衣服を緩めて体の熱を逃がし、首の周り、脇の下、太ももの付け根など、太い血管が通っている部分を氷のうや保冷剤で冷やすことが効果的です。また、応答が明瞭で意識がはっきりしており、自力で飲める場合に限り、経口補水液やスポーツドリンクなどで水分と塩分をゆっくり補給させます。呼びかけへの反応がおかしい場合、吐き気・嘔吐がある場合、自力で水分が摂れない場合は、無理に飲ませず、速やかに医療機関の受診や救急要請を検討することが重要です。現場の管理者は、万が一の事態に備えてこれらの手順をマニュアル化し、全従業員に周知しておくことが望まれます。※[4][5][9]

工場の熱中症対策の基本と作業環境の改善(ソフト面)

作業者の健康を守るためには、設備の導入といったハード面の対策だけでなく、日々の運用や作業ルールの見直しといったソフト面の対策を徹底することが基本となります。ここでは、現場ですぐに取り組める管理手法やグッズの活用について解説します。

WBGT(暑さ指数)の正確な測定と状況の把握

気温だけでなく、湿度や輻射熱を考慮したWBGT(暑さ指数)を測定し、客観的な数値に基づいて作業環境を管理することが不可欠です。

工場内の暑さを評価する際、一般的な温度計が示す「気温」だけでは不十分です。熱中症の発生には湿度が大きく影響するため、環境省や厚生労働省は「気温」「湿度」「輻射熱(周辺の熱環境)」の3つの要素を取り入れたWBGT(Wet Bulb Globe Temperature:暑さ指数)の活用を推奨しています。

現場の作業エリアごとにWBGT計で実測するなどし、数値が基準値を超えた場合には「作業時間の短縮」「休憩頻度の増加」「作業の中止」といったルールをあらかじめ定めておくことが重要です。感覚や経験則に頼るのではなく、データに基づいた管理を行うことで、熱中症リスクの低減につながります。

こまめな水分・塩分補給と適切な休憩時間の確保

喉が渇く前の計画的な水分補給をルール化し、冷房の効いた休憩所を整備して体を休める環境を確保します。

作業中の水分補給は「喉が渇いた」と感じる前に行うことが鉄則です。作業内容や環境に応じて「1時間に1回、コップ1杯程度の飲料を摂る」といった具体的なルールを設け、管理者が声掛けを行うなどの工夫が必要です。汗と一緒に塩分やミネラルも失われるため、水だけでなく塩飴や経口補水液も常備しておきましょう。 また、作業の合間に体を冷やして深部体温を下げるためには、適切な休憩所の整備が欠かせません。休憩室にはエアコンを完備し、作業服を緩めて横になれるスペースや、冷たい飲料水を提供するサーバーなどを設置することで、疲労回復と熱中症予防の相乗効果が期待できます。

冷却グッズ(空調服や保冷剤)の活用と限界

ファン付きウェアや保冷ベストなどのパーソナル冷却グッズは有効ですが、空間全体が高温多湿な状況では効果が薄れるという限界を理解しておく必要があります。

作業者個人の体温上昇を抑える手段として、小型ファンが内蔵された空調服や、首元・脇の下を冷やす保冷剤入りベスト、水に濡らして使う冷却タオルなどの導入が進んでいます。これらは比較的安価に導入でき、即効性があるため多くの工場で活用されています。 ただし、これらの冷却グッズには限界がある点に注意が必要です。例えばファン付きウェアは、周囲の空気を取り込んで汗の蒸発を促す仕組みのため、周囲の温湿度、気流、着衣条件、作業強度によって効果が大きく変わります。特に高温多湿時は期待した冷却効果が得にくい場合があるため、補助的な対策として位置づけ、WBGT管理や休憩、送風、空調等の根本的な環境改善と併用することが重要です。

従業員への安全衛生教育と連絡体制の整備

熱中症の危険性や予防方法について従業員への教育を徹底し、万が一の事態に備えた迅速な連絡フローを構築します。

設備やグッズを揃えても、現場の従業員一人ひとりに予防の意識が根付いていなければ対策は機能しません。夏場を迎える前に、安全衛生委員会などで熱中症予防に関する講習会を実施し、正しい知識を共有することが重要です。日々の朝礼で睡眠不足や体調不良がないかを確認し合うなど、コミュニケーションを通じた健康管理も有効です。 また、体調不良者が発生した際に、誰が一次対応を行い、誰が救急車を呼び、管理責任者にどのように報告するかといったフローを明確にしておく必要があります。

工場全体を涼しくする根本的な環境改善策(ハード面)

個人の努力や運用ルール(ソフト面)だけでは、大規模施設の厳しい暑さに対応しきれないケースが多々あります。根本的な解決を図るためには、建物自体に熱をこもらせない、あるいは効率よく冷やすためのハード面(設備・環境)の改善が不可欠です。

工場の暑さ対策として、遮熱、換気、空調の3つの改善策を示した図

空調設備やスポットクーラーの導入と運用時の注意点

エアコンやスポットクーラーによる「冷やす」対策は直接的な涼しさを提供しますが、大規模空間では導入・運用コストや排熱の課題が伴います。

工場内に大型のパッケージエアコンなどの空調設備を導入することは、室温を下げる最も直接的な方法です。しかし、数千平方メートルに及ぶような広大な空間全体を冷やそうとすると、膨大な初期費用に加えて、莫大な電気代(ランニングコスト)が発生します。 そこで、作業者の周囲だけを局所的に冷やすスポットクーラーを採用するケースも多く見られます。スポットクーラーは特定のエリアを強力に冷やせるメリットがある一方で、機器の背面から熱風(排熱)が放出される仕組みになっています。そのため、排熱ダクトを適切に屋外へ誘導しないと、冷やしている場所のすぐ後ろで室温が上昇してしまい、工場全体の熱中症リスクをかえって高めてしまうことがあります。

換気システムによる排熱と空気の循環の促進

ルーフファンや大型扇風機を活用して工場内の熱気や湿気を排出し、空気の循環を促すことで体感温度を下げます。

熱気が上部に滞留しやすい大規模施設の構造を逆手に取り、屋根に設置するルーフファン(ベンチレーター)や壁面の大型換気扇を稼働させて、室内にこもった熱を強制的に屋外へ排出するアプローチです。新鮮な外気を取り入れ、空気の滞留を防ぐことで、WBGTの低下に貢献します。 また、工場用の大型扇風機(循環ファン)を設置して室内の空気を撹拌することも有効です。気流を生み出すことで作業者の皮膚表面の汗の蒸発を促し、室温自体は大きく変わらなくても体感温度を下げる効果が期待できます。ただし、周囲の空気がすでに高温である場合は熱風をかき回すだけになるため、排熱対策とセットで行うことが重要です。

屋根や壁への遮熱シート・断熱材の施工による輻射熱対策

建物外部から侵入する日射や輻射熱を抑える対策は有力な選択肢の一つですが、最適な対策は屋根・外壁の仕様、既存断熱、換気、熱源配置、空調計画などによって異なります。遮熱シート等は、現地調査や試算に基づいて他の対策と比較しながら検討するのが現実的です。

前述の通り、夏の工場が暑くなる大きな要因は、熱せられた屋根や壁から放射される「輻射熱」です。この輻射熱への対策として、屋根裏や外壁などへの遮熱シートや断熱材の施工は有力な選択肢の一つです。 遮熱シートや断熱材は、施工条件が合えば屋根・壁からの輻射熱の影響を抑え、室内の温熱環境や空調負荷の改善に寄与する可能性があります。効果の大きさは製品仕様、施工位置、空気層の有無、既存断熱、換気条件、熱源の状況などによって変わるため、反射率、温度低減幅、省エネ効果、投資回収性については、個別の試験データや現地シミュレーションで確認することが重要です。

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ソフト面とハード面の対策をどう組み合わせるべきか

工場の熱中症対策は、何か一つの方法だけを実施すれば完璧というものではありません。自社の予算や施設の構造、作業内容に応じて、運用改善(ソフト面)と設備投資(ハード面)を適切に組み合わせることが重要です。ここでは、各対策の比較と導入ステップについて整理します。

対策方法の比較(即効性・コスト・根本解決の観点)

各対策のメリットと課題をイニシャルコスト、ランニングコスト、根本解決の度合いという3つの軸で比較し、自社に最適な組み合わせを検討します。

大規模施設においては、以下の表のように各対策の特徴を把握したうえで、複数の施策を組み合わせるのが現実的です。

対策の種類イニシャルコスト(導入費用)ランニングコスト(維持・電気代)根本的な室温低下効果主な特徴と課題
冷却グッズ(空調服など)非常に低無し(対症療法)すぐに導入でき個人の負担軽減に役立つが、空間自体が高温多湿な場合は期待した冷却効果が得にくく、補助的な対策としての位置づけになる。 
大型扇風機・換気扇低〜中小〜中(排熱効果)空気を循環させ体感温度を下げるが、輻射熱の根本的な遮断にはならない。
スポットクーラー局所的のみ作業エリアを直接冷やせるが、排熱処理を誤ると空間全体の温度を上げてしまう。
空間全体の空調設備高(電気代大)温度管理がしやすいが、広大な工場では電気代の負担が経営を圧迫しやすい。
遮熱シートの施工中〜高低(施工後の電力消費は原則ないが、点検・補修費は生じ得る)中〜大(建物条件による)輻射熱対策として有力。空調負荷の低減が期待できる一方、効果は建物条件・熱源・施工方法に左右されるため、温熱測定や試算に基づく判断が望ましい。 

予算と優先順位に応じた段階的な導入ステップと補助金の活用

限られた予算内で最大の効果を得るためには、優先順位をつけて段階的に対策を進め、活用できる補助金制度を検討することが効果的です。

  • ステップ1:現状把握とソフト面の徹底(低コスト・即効性)
    まずはWBGT計で作業エリアの熱環境を測定し、危険な時間帯や場所を特定します。その上で、空調服の支給や、こまめな水分・塩分補給ルールの徹底といった、すぐに着手できるソフト面の対策を行います。
  • ステップ2:局所的な環境改善(中コスト)
    特定の作業場所(熱源の近くなど)に限定してスポットクーラーを導入したり、換気扇を増設して排熱を促したりと、比較的コストを抑えつつピンポイントで環境を改善します。
  • ステップ3:根本的な建物全体の改善(高コスト・長期的な費用対効果)
    上記を実施しても工場全体が「常に蒸し暑い」場合、屋根からの輻射熱が一因となっている可能性があります。この段階で、遮熱シートの施工や全体空調の見直しを検討します。遮熱シート等で熱の侵入を抑えることで、条件によっては空調負荷の低減につながる可能性があります。

また、こうした熱中症対策の設備投資には、国や自治体の補助金制度を活用できるケースがあります。目的や投資内容によって適した制度が異なるため、自社の対策に合ったものを検討しましょう。※[6] [7] 

直接的な熱中症予防対策には、年度によっては厚生労働省のエイジフレンドリー補助金の対象となる場合があります。また、遮熱施工や高効率空調への更新などは、年度や公募区分によっては経済産業省・資源エネルギー庁系の省エネ支援制度の対象となる場合があります。制度名、公募枠、対象経費、補助率は年度ごとに変わるため、必ず公式公募要領で最新情報をご確認ください。 

法令に基づく熱中症対策の義務と管理者の責任

工場において熱中症による労災事故が発生した場合、企業や管理者は法的・社会的な責任を問われる可能性があります。ここでは、事業者が最低限知っておくべき法令の概要について触れておきます。

労働安全衛生規則が求める基準と企業の安全配慮義務

事業者は労働契約法に基づく「安全配慮義務」を負っており、労働安全衛生規則に則った作業環境の維持が求められます。

労働契約法第5条により、企業は「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」という安全配慮義務を負っています。※[8]

工場の暑さ対策に関してもこの義務の範囲内とみなされ、万が一熱中症によって深刻な健康被害が生じた場合、企業側が十分な対策を怠っていたと判断されれば、損害賠償責任を問われる可能性があります。 

また、労働安全衛生規則では、例えば、著しく暑熱等の作業場における作業場外の休憩設備の設置(第614条)、多量の発汗を伴う作業場における塩及び飲料水の備え付け(第617条)、暑熱な場所で一定時間以上行う作業における報告体制・初期対応手順の整備と周知(第612条の2)などが定められています。WBGTについては、厚生労働省の通知・要綱で、原則として作業場所での実測等により暑熱環境を判断することが示されています。現場の管理者は「昔から暑かったから仕方ない」という認識を改め、現行法令と最新通知を踏まえた運用を行う必要があります。※[9] 

※法令の具体的な要件や運用は変更される可能性があるため、最新の基準は厚生労働省の公式サイトや労働基準監督署にてご確認ください。

熱中症対策の義務化に関する詳細と罰則リスク

法改正による義務化の動向や、違反した場合の罰則リスクについては、自社の状況と照らし合わせて正確に把握しておく必要があります。

近年、気候変動による猛暑の常態化を受け、行政による熱中症対策の指導は年々厳格化しています。2024年4月には改正気候変動適応法が全面施行され、熱中症特別警戒情報(熱中症特別警戒アラート)やクーリングシェルター制度が創設されました。もっとも、事業者の職場における具体的な熱中症対策義務は、主として2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則第612条の2等で確認する必要があります。※[9][10]

工場や倉庫を運営する企業が負う法的義務と違反時のリスクは、2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則第612条の2を含む現行法令で確認が必要です。特に同条は労働安全衛生法第22条を根拠とする措置義務であり、違反時は同法第119条・第122条の対象となり得ます。詳細な適用関係は個別事案ごとに確認が必要です。※[9]

まとめ:工場の熱中症対策は根本的な環境改善から取り組もう

工場や倉庫の大規模施設における熱中症対策は、単なる「快適さの追求」ではなく、従業員の命を守り、企業の継続的な生産活動を維持するための重要な投資です。本記事で解説したポイントは以下の通りです。

ポイント

  • 工場は機械の排熱や金属屋根からの輻射熱により、熱がこもりやすい特殊な環境である。
  • めまいや大量の発汗などの初期症状を見逃さず、水分補給や体を冷やす一次対応を徹底する。
  • 空調服や水分補給のルール化(ソフト面)は重要だが、空間自体が高温のままでは限界がある。
  • スポットクーラーの排熱に注意し、換気による空気の循環を促すことが有効。
  • イニシャルコストはかかるが、遮熱シート等で建物への熱の侵入を抑える対策は有力な選択肢の一つであり、条件によっては空調負荷や電力使用量の低減につながる可能性がある。
  • 企業は従業員に対する安全配慮義務を負っており、法令に則った環境整備が求められる。

自社の工場の構造や課題を正しく把握し、補助金なども賢く活用しながら、長期的視点に立った根本的な暑さ対策に踏み出してみてはいかがでしょうか。

工場の熱中症対策に関するよくある質問

工場の暑さ対策や環境改善を検討する際、多くの担当者様から寄せられる代表的な疑問とその回答をまとめました。自社の対策を進める際の参考にしてください。


Q.ソフト面の対策とハード面の設備投資、どちらから着手すべきですか?

A.まずは即効性のあるソフト面から着手し、並行して中長期的なハード面の改善を計画的に進めるのが基本です。
熱中症から従業員の命を急いで守るためには、WBGT計による測定や水分・塩分補給のルール化、休憩時間の見直し、空調服の支給といった「ソフト面の対策(運用改善や個人グッズの導入)」から始めるのが最も迅速です。しかし、根本的な空間の暑さが解消されない限り、作業効率の低下や疲労の蓄積は防げません。そのため、ソフト面で急場をしのぎつつ、来年の夏に向けて空調の増設や換気設備の改善、屋根への遮熱シート施工といった「ハード面の設備投資」を計画的に検討していくのが理想的なステップです。

Q.スポットクーラーを導入したのに、工場全体が暑いままなのはなぜですか?

A.スポットクーラーの排熱が工場内に滞留していることが、一因となっている可能性があります。
スポットクーラーは前面から冷風を出す一方で、背面からは熱風を排出する仕組みになっています。この排熱をダクトなどで屋外へ逃がさず工場内に放出していると、冷やしている作業者のすぐ後ろで室温が上昇してしまい、空間全体としてはかえって暑く感じられることがあります。導入の際は、排熱処理と換気システムの併用が重要です。

Q.古くて強度の低い屋根でも、建物の暑さ対策工事は可能ですか?

A.遮熱シートなど比較的軽量な素材を用いた対策は、建物条件によっては採用できる場合があります。
大規模な断熱材の追加や屋根の二重化(カバールーフ工法)などは建物の耐荷重に影響を与えることがありますが、遮熱シートは、そうした工法と比べて比較的軽量な製品・工法が多く、建物への追加負荷を抑えられる場合があります。ただし、屋根自体の劣化状況(サビや雨漏りなど)や下地の状態によっては事前の補修が必要になる場合もあるため、まずは専門業者による現場調査と強度確認を依頼することをおすすめします。

Q.夜間の工場や、直射日光が直接当たらない屋内でも熱中症対策は必要ですか?

A.昼間に蓄積された熱(輻射熱)や機械の排熱によって高温多湿になりやすいため、夜間や屋内でも十分な対策が必要です。
「直射日光に当たらないから」「夜間だから」といって熱中症のリスクがないわけではありません。日中に太陽の熱を浴びた金属屋根やコンクリートの壁は熱を蓄え、夕方以降も長時間にわたって建物内部へ熱(輻射熱)を放出することがあります。さらに、機械の排熱や多湿な環境が重なることで、夜間でもWBGT(暑さ指数)が高くなる場合があります。時間帯を問わず、WBGTを含む温熱環境の把握と、適切な休憩・水分補給・換気・冷却措置が求められます。


(参考資料・出典)
[1] 平年値(年・月ごとの値)名古屋(愛知県)|気象庁
[2] 平年値(年・月ごとの値)東京(東京都)|気象庁
[3] 熱中症予防情報サイト 暑さ指数(WBGT)とは?|環境省
[4] 熱中症環境保健マニュアル|環境省
[5] 働く人の今すぐ使える熱中症ガイド|厚生労働省
[6] エイジフレンドリー補助金|厚生労働省
[7] 省エネ補助金パンフレット|経済産業省 資源エネルギー庁
[8] 労働契約法|e-Gov 法令検索
[9] 労働安全衛生規則|e-Gov 法令検索
[10] 改正気候変動適応法|環境省 熱中症予防情報サイト
※参照日:2026年6月29日
※各種制度等は法改正によって変更される場合があります。最新の情報は各省庁の公式サイトや専門機関にご確認ください。

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